text by ishida 山につながる敷地 敷地は生駒山の麓にあり、山を切り開いたところにありました。その為、敷地の1/3ほどが平らな部分と1.5m~3mの高低差がある山の一部となっていました。 一般的な土地として考えれば、実際に家として建てられる平らな部分の面積が少ないので、家が計画しずらくなり、そこが欠点と見なされているようでした。 しかし、一目この土地を見た瞬間、私たちから見ればとても魅力的な敷地でした。 それは、山の緑を取り込めば、とても豊かな居住空間になることが、すぐに想像できたからです。 一般的な解答:遮断 土地の1/3が山部分なので、平らな部分を増やせば家が建てやすくなります。なので、住い手は当初、不動産屋から山部分に擁壁を作り、敷地の平らな部分を広げるよう提案を受けていたそうです。 つまり、一般的には、この山部分は欠点にしか見なされません。しかも、その擁壁工事には数百万円のお金が掛かります。 私たちの解答:つながる 私たちは、この敷地の山部分を欠点とは見ませんでした。むしろ、長所としてしか見ませんでした。 こんなに山の緑が豊かな敷地は、一般的な区画整理された敷地では得られない豊かさがあります。 積極的にこの山部分を利用して、山の緑と繋がれば、住環境はとても豊かになります。そしてなにより、擁壁に使う無駄なお金を使う必要がなく、そのお金を家に使うことができます。 山の自然と繋がる方法 私たちが考えたのは、この1.5mの高低差を利用して積極的に敷地の緑を取り込むことでした。 具体的には、1.5mの高低差ということは、ちょうど半階くらい上った所に家の階(床)があれば部屋と山が繋がることができます。そこで建物をスキップフロアにすることにしました。スキップフロアとは、建物が半階ずつズレて重ることで階をつくることで、1階2階という区切りがつきにくくなり、家全体を緩やかに繋ぐことができます。プライバシーを保ちながらも、お互いの気配を感じられるような家にすることができます。 プランとしては、中間階である1.5階をキッチン/ダイニングとして、デッキを設けてこの部屋と山を繋ぎ、山の緑を家に取込むことにしました。ダイニングはコミュニケーションの場で家族が集まる家の中心です。そしてキッチンは、家事の中心でもあります。このダイニングとキッチンは、家で一番使われ重要な場所なので、この一番眺望がいい場所に配置することにしました。 一方、リビングは、コミュニケーションの場と考えられがちですが、昨今はテレビがその中心となっています。テレビを見る行為というのは、家族全員で見ていてもやはり個人の中で完結しているもので、テレビを見ることでコミュニケーションをとることは無いのではないでしょうか。ですので、リビングはどちらかというと、家族がリラックスする場所ではあっても、わりと個人個人がそれぞれに使う場所になっているように思います。
そんなことを考えていた今回のリビングでは、わりと壁が多い内向きの部屋ではありますが、ピクチャーウィンドウから山の景色が楽しめるようにすることにしました。 text by Ishida 忙しい毎日 住い手であるご夫婦は共働きで、子供もまだ小さく、二人目を出産予定でした。 朝の時間帯が特に慌ただしく、朝食の用意、子供の準備、洗濯と、ご夫婦で分担されていました。 平日、家族全員が一緒に食事ができるのが朝食のみであり、家族のコミュニケーションという意味では、朝が特に重要な時間帯でもありました。 桜並木に面する敷地 敷地の特徴はなんといっても東側にある桜並木の緑道に面していることでした。春の桜はもちろんですが、この緑道が年中、敷地に緑を提供してくれます。それに加え少し高台にあるので、2階レベルからの眺望が非常によい敷地で、敷地条件としては、とても恵まれていました。 敷地環境 朝のコミュニケーションを大切にする 設計に当たっては、夫婦共働きの忙しい生活を支えながらも、日常を気分よく有意義に過ごせる住まいを心掛けることにしました。 一番最初に考えたことは、朝の慌ただしい時間ではあるけれど、少しでも心地よく食事や会話ができるように、ということでした。具体的には、朝日が入る東側の桜並木の眺望を切り取るようにピクチャーウィンドウとし、朝に一番気持ちのいい場所をダイニングとしました。私たちは、ダイニングこそ家の中心であり、大切なコミュニケーションの場だと思っています。 朝、2階から起きてくると、必ず朝日と同時にきれいに切り取られた景色が飛び込みます。自然とそこに人が集まるような、そんなダイニングをめざしました。 朝日の入るダイニングからの眺め 休日には、ご主人の希望であった薪ストーブが、忙しい平日の疲れを癒す絶好の装置として機能するように、ダイニングとリビングの中間に設置しています。 また、家に帰ってきたときの安心感の為に、なるべく家全体の気配がわかるように、部屋全体が見渡せるようなプランとしています。 洗面、お風呂、洗濯を2階にするという選択 家事動線について、家事負担の軽減、奥様の洗濯、洗濯干しの乾燥状態のこだわり(毎日のストレス軽減)、ご主人のお風呂からの眺望のこだわり(忙しい平日のささやかな癒し)、これらの条件を満たす家事動線を考えた結果、2階に水廻り(お風呂、洗濯室)を配置することにしました。 2階に水廻りがあるメリットは、①脱衣・洗濯、②物干し、③たたむ、④収納、これら全てが同じ階で行われ上下階移動がないということです。もちろん、お風呂が2階にあるのに抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。 1階に水廻りがあると、家事が集約できると考えがちですが、衣類は結局、2階の寝室にもって上がることになります。このように、よく考えると、どちらにもメリット、デメリットがあることがわかります。 結局は、家事動線の正解は一つではないということであり、人それぞれの動線の正解がある、と言えます。私たちは、このように、それぞれの生活に合った家事動線を考えるようにしています。
外観・植栽について
植栽を含む外観については、当初、森の自然の中にあるような佇まいとしたいという要望でした。 そのイメージに一番合うのは、板壁と緑の植栽の組み合せだと考えたので、予算やメンテ上の考慮もあり限定的ではありますが壁に板を張りました。 また、植栽については、住い手さんが地元で探してこられた『 planta 』さんにお願いしました。 予算も限られた中で、頑張って頂いてとても感じのよい植栽になりました。 こういう出会いは本当にいいなあ、と思いました。 まだまだ植栽は少ないですが、これから時間をかけて植栽を増やされていくことと期待しています。 そのときになって初めてこの家も森の自然の中にある佇まいにより近づくのではと思っています。 |